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函館地方裁判所 昭和29年(ワ)36号 判決

原告 竹内金次郎

被告 本多春吉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金八万八千六百円および、これに対する昭和二十八年二月六日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、請求原因として、原告は昭和二十八年八月二十日頃訴外三橋正雄との質権設定契約により、同訴外人に対する貸金三十八万円の担保として、同訴外人所有の機帆船第三みつよし丸(十六屯七二)(以下本件船舶という)の引渡を受け、これを臼尻村船入澗に繋留占有していたところ、被告は昭和二十八年九月二十日夜本件船舶を盗奪の上、函館港に廻航し、函館市真砂町所在の大洋造船所に上架した。原告は右盗奪が何人の所為か判明しなかつたため、臼尻警察署および函館海上保安庁に盗難の届出をする一方、本件船舶の船長および機関士とともに極力本件船舶の行方を捜索したが、函館海上保安庁より奪取者は被告であること、および本件船舶は前記造船所に上架中であることを知らされたので、被告が奪取者であることを知るに至つた。函館海上保安庁は事実調査の上、原告が本件船舶の正権原者であることを確認の上、昭和二十八年十月二十四日、原告に対し本件船舶を引取るよう通知した。しかるに被告は本件船舶の汽罐を取外し、運航ができぬようにしたので原告は汽罐の取付その他整備の上、臼尻村に廻航し、本件船舶の占有を回復できた。しかし、原告は右占有回復のため(一)本件船舶捜索のため要した原告ならびに本件船舶の船長および機関士の旅費、宿泊料金一万六千百円、(二)汽罐取付整備費用金三万九千九百円、(内訳、汽罐取付料金二万五千円、汽罐附属部分整備費金三千円、クランクメタル、ホワート入替取外等費用金四千九百円、船台上げ下ろし等費用金七千円)、(三)本件船舶を函館より臼尻へ廻航のため要した燃料(重油一本、マシン油一罐)代金四千円、以上合計六万円を要した。かように被告は本件船舶に対する原告の占有を侵奪することによつて原告の質権を侵害し、金六万円相当の損害を原告に与えた。次に原告はその弟よりその所有にかゝる六分パイプ二十尺(時価二千円相当)、八分マニラロープ八十尋(時価二万四千円相当)、アンカー十貫もの二丁(時価二千六百円相当)を借受け、本件船舶繋留のため使用していたところ、被告が本件船舶を占有中紛失させたので、原告は所有者に対し右時価相当額を弁償しなければならなくなり、被告の右不法行為により右時価相当額である金二万八千六百円の損害を受けた。よつて、原告は被告に対し損害賠償として金八万八千六百円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和二十八年二月六日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴請求におよんだ、と述べ、仮に被告主張のように、本件船舶が被告の所有であるとしても本件船舶は訴外三橋正雄が占有しており、かつ同訴外人は原告に対し本件船舶は旧所有者である被告から昭和二十八年六月二十九日他の漁船漁具類とともに買受けたものであると言明し、立会保証人等の記名捺印のある同日附売買契約書を所持していたので、原告は本件船舶が同訴外人の所有であると信じ、同訴外人に対し金三十八万円を貸出し、同訴外人との質権設定契約に基き本件船舶の引渡を受けたものであるから、平穏公然善意無過失に本件船舶の占有を取得したものであり、民法第百九十二条により本件船舶について質権を即時取得したものであると述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として、被告が昭和二十八年九月二十日臼尻村に繋留中の本件船舶を函館に廻航し函館市真砂町所在の大洋造船所に上架したことは認めるが、本件船舶の所有者が訴外三橋正雄であること、および原告が訴外三橋正雄との質権設定契約により、同訴外人に対する貸金の担保として本件船舶の引渡を受け、これを占有していたことは否認する。その余の原告主張事実は不知。本件船舶は被告の所有であるが訴外三橋正雄に詐取されようとしたので、被告は同訴外人を追跡し、臼尻村において本件船舶を発見したので、自己の所有物として保存の方法をとつたにすぎないと答え、原告の仮定的主張に対し、原告が船舶台帳や所有者の承諾の有無を調査する等、少し注意すれば訴外三橋が漁業家相手の詐欺師の定評のある男であつて、本件船舶を所有する筈のないことはすぐ判る筈であるから、原告は訴外三橋が本件船舶の所有でないことを末必的に知つていたか、少くとも知らなかつたことについて過失があつたものであり、原告は本件船舶について質権を取得しなかつたものである。仮に原告が質権に基いて本件船舶を占有していたとしても、質権者が質物の占有を奪われたときは占有回収の訴のみによつて占有を回復すべきであるのに、原告は右訴によらず占有の回復をはかつたのは民法第三五三条に違反し、無効であり、原告の回復した占有こそ不法占有である。従つて右不法占有をなすために要した費用を損害賠償として被告に請求する権利はない。又質権者は質物を保存し、留置する権利を有するだけであつて、質物を使用収益することはできないにもかゝわらず、原告は不法にも本件船舶を使用収益するため機械を取り付けたものであるから、右機械取付に要した費用を損害賠償として被告に請求する権利はない。仮に原告にその主張のような損害賠償請求権があるとしても、原告は本件船舶を質物として留置しておく権利を有するだけで、これを使用収益する権利はないにもかゝわらず、本件船舶が被告の所有であることを知りながら、本件船舶を勝手に若竹丸と改称し、いか漁その他に使用し、これによつて一ケ月金五万円以上三ケ月で金十五万円の不法の利益を得ており、それと損益相殺すれば原告はかえつて被告に支払い分がある。以上いずれにしても原告の本訴請求は失当であると述べた。〈立証省略〉

理由

一、証人三橋正雄の証言、原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、原告は昭和二十八年八月二十日頃訴外三橋正雄との質権設定契約により、同訴外人に対する貸金三十八万円の担保として本件船舶の引渡を受けたことを認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。原告は質権設定当時本件船舶の所有者は訴外三橋正雄であつたと主張するに対し、被告は被告の所有であつたと主張するので検討するに成立に争いのない甲第三号証、同第四号証、同第五号証の一、二、乙第一、三号証の一部、証人三橋正雄の証言を総合すれば次の事実が認められる。すなわち、本件船舶は被告の所有であつたところ、被告は昭和二十八年六月二十九日訴外三橋正雄に対し、本件船舶を他の漁船三隻(第一三菱合同丸、第二三菱合同丸、第一みつよし丸)ならびにこれら漁船に附属している漁具、漁網とともに代金合計四百二十万円、その支払方法は同日金四十万円、同年七月五日金百六十万円、同年九月三十日金二百二十万円を支払い、かつ、右支払日を満期とする銀行保証手形を訴外三橋から被告に交付すること、売渡物件の引渡は同年七月十日迄千葉県鴨川港においてなすことの約束で売渡した。その後代金支払方法については訴外三橋の申出により変更されたが、売渡物件は第一みつよし丸およびこれに附属する漁具等を除き、全部訴外三橋に引渡され、訴外三橋は本件船舶外二隻の船舶を函館に廻航し、更に本件船舶のみを臼尻港に廻航し、前記のとおり原告に担保物(質物)として引渡した。その後訴外三橋は右買受代金を支払わないばかりでなく同訴外人に関する評判が悪いので、被告は同年九月初頃函館に来て調査したところ、訴外三橋が被告に保証として交付した函館市南部漁業協同組合名義の保証書および約束手形は偽造であることを知り、訴外三橋を訊したところ、訴外三橋は被告を欺罔したことを認め謝罪したので、同年九月六日頃訴外三橋と話合の上被告は売買物件全部の返還を受けることとなつたことを認めることができ、成立に争いのない乙第一ないし第三号証中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右認定によれば本件船舶の所有権は右売買契約の成立より訴外三橋に移転し、かつ本件船舶の引渡を受けたことにより訴外三橋は対抗要件をも具備したものであり、かつ、被告が訴外三橋の詐欺に気付いたのは訴外三橋が原告に対し本件船舶に質権設定契約をし、かつその引渡を了した後であることが明らかであるから右質権設定契約ならびに本件船舶の引渡当時本件船舶の所有権は訴外三橋にあり、原告は正当に本件船舶について質権を取得したと認定するのが相当であつてこれに反する被告の主張は失当である。(被告は本件船舶の所有者であると主張するが、本件船舶の所有権は一旦訴外三橋に移転したこと前記認定のとおりであり、その後更に被告が本件船舶の所有権を回復したとしても、原告の質権によつて制限された所有権を取得するに過ぎない。又被告が本件船舶の所有権を遡及的に回復し、これをもつて原告に対抗できる事実について被告は何等主張しえないところであるから、この点について判断する限りでない)

二、被告が昭和二十八年九月二十日臼尻村に繋留中の本件船舶を函館に廻航し、函館市真砂町所在の大洋造船所に上架したことは当事者間に争いがなく、被告が右廻航について原告の承諾を得なかつたことは弁論の全趣旨によつて認められるから、被告が昭和二十八年九月二十日に本件船舶を臼尻より函館に廻航したことは、原告の質権に基く本件船舶の占有を侵奪したものといわなければならず、被告はこれにより原告の本件船舶に対する質権を侵害したものと認めることができる。

三、よつて、被告が右質権侵害について故意過失があつたかどうかについて考えるに、前記認定のとおり被告は昭和二十八年九月初頃訴外三橋から同訴外人が被告を欺罔していたことの告白を受けたのであり、かつ証人近藤太郎の証言(第一回)によれば、本件船舶が臼尻村にあることは訴外三橋の告白によつて知つていたことが認められるから証人近藤太郎の証言(第一回)によれば被告が本件船舶を臼尻村において発見したのは訴外三橋の告白によつたものであることが認められ、従つて被告は本件船舶が原告に担保として差入れられていたことを訴外三橋から聞いていたが少くとも多少の注意を払えば(例えば臼尻村の村人に聞き合せるような方法によつて)本件船舶が担保として原告に引渡されていることは容易に知り得たと認められ右認定を左右するに足る証拠はないから被告は原告の質権侵害について少くとも過失があつたものと認めなければならない。よつて、被告は原告に対し右質権侵害によつて生じた損害を賠償する義務がある。

四、証人下鳥登喜男の証言により成立を認める甲第一号証の一、二、証人竹口豊春、同粟井定一の各証言により成立を認める甲第一号証の三、証人川島スヱの証言により成立を認める甲第二号証の一、二、証人小川幸一郎の証言により成立を認める甲第二号証の三、証人近藤太郎(第一、二回)、小川幸一郎、竹口豊晴、下鳥登喜男、川島スヱ、粟井定一、武田澄雄の各証言、および原告本人尋問の結果を総合すれば次の事実が認められる。すなわち、原告は本件船舶が臼尻港から見えなくなつたので、臼尻警察署および函館海上保安庁にも盗難届を提出するとともに函館市に出て本件船舶の所在を捜索し、本件船舶が大洋造船所に上架してあることを知り函館海上保安庁にその旨を届出た。函館海上保安庁において事実調査の上原告をもつて本件船舶の正当な質権者と認め、昭和二十八年九月二十九日頃本件船舶を原告に引渡した。しかし被告は本件船舶を大洋造船所に上架中本件船舶の機関を取外したので、函館海上保安庁は本件船舶を原告に引渡すに当つては本件船舶の機関と船体とは分離されたまゝの状態で原告に引渡されたので、原告は下鳥鉄工所に右機関の取付作業を依頼し、取付の費用として下鳥鉄工所に金二万八千円を支払つたが試運転の結果クランクメタルホワイトの取付が不完全であつたので、第一内燃機製作所に依頼し、クランクメタルホワイトの入替取外等をなさしめ、その費用として同製作所に金四千九百円を支払つた。又原告は大洋造船所から本件船舶を下ろすための費用として同造船所に金七千円を支払つた。原告は右試運転後本件船舶を臼尻港に廻航したが、右廻航には燃料として重油ドラム罐一本、マシン油一罐を要したがその代金は金四千円であつた。原告は本件船舶を捜索するため及び本件船舶の引渡を受けた後臼尻廻航までの間原告は鈴元旅館に宿泊し、金七千五百円を支払つた外右廻航にあたり本件船舶の船長、機関士として乗込ました二名の者を機関取付作業中函館市松風町五番地とらや旅館に宿泊したが、その宿泊料として原告はとらや旅館に合計金七千円を支払つた。その外原告外二名の臼尻村から函館までの旅費を原告は支出した。以上の事実を認定することができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右認定のとおり、原告は函館海上保安庁から本件船舶(船体と機関とは分離された状態において)の引渡を受けた時に質物の占有を回復したのであるから、これと同時に被告の質権侵害は消滅したものと認めるのが相当である。原告は右引渡を受けた後における機関取付クランクメタルホワイト入替取外等の諸費用、船台から下ろすに要した費用、臼尻まで廻航するに要した費用をも被告の前記占有侵害によつて生じた費用であると主張するが、原告が質権を実行するためには機関を船体に取付け修復する必要は少しもなく、機関が外されたまゝの状態でも何等支障がないのであり、(かえつて機関を外しておけば質物の保管には便利であるとさえ考えられる)船台から下ろすことも質権実行に必ずしも支障があるとも認められず、更に本件船舶を臼尻港に廻航することは質権実行のためにはかえつて不便にこそなれ、(執行吏に委任して質権を実行するためには函館市においたまゝの方が臼尻村におくより遥かに便利なことは競落人を得るためにも、臼尻村までの執行吏の旅費を要しない点から考えても明らかである)必要なものと認めることではない。そればかりでなく原告本人尋問の結果によれば原告が右のごとき機関の取付等を行い、かつ本件船舶を臼尻港まで廻航したのは、本来質権者に禁止されている本件質物を原告のいか釣漁業に使用するためになしたものであることがうかゞわれる。従つて、前記費用の支出は被告の本件船舶に対する占有侵奪による質権侵害とは法律上相当因果関係がないといわなければならない。次に原告等の旅館宿泊費について考えるに原告は函館海上保安庁より本件船舶の引渡を受けたことによつて質物の占有を回復し、被告の質権侵害の事実は無くなつたのであり、それ以後は大洋造船所に保管を依頼することによつても、又函館において適当な者をして本件船舶を保管せしめることによつても、質物の占有を維持することは可能であり、臼尻に廻航する必要は毫も存しなかつたのであること前記のとおりであり、原告および本件船舶の船長、機関士が本件船舶の引渡を受けた以後函館市内の旅館に宿泊したのは本件船舶の機関取付を待つためであつたことは前記認定のとおりであるから本件船舶占有回復後の宿泊は被告の占有侵奪によつて必要となつたものというよりはむしろ、原告自身都合によるものと認められ、被告の占有侵奪との因果関係を認めることはできないところ、とらや旅館に支払つた宿泊料はいずれも占有回復後のものであること前記認定のとおりであり、かつ原告の鈴元旅館に支払つた宿泊料は占有回復の前後にまたがることは前記認定のとおりであり、しかも全証拠をもつてしてもそのうちどれだけが占有回復前のものであり、どれだけが占有回復後のものであるかを区別することはできないから、原告が旅館に支払つた宿泊費についてはいずれも被告の占有侵奪による質権侵害との間に相当因果関係があることの立証はないといわなければならない。

従つて、被告の本件質物占有侵奪による質権侵害と原告主張の右費用支出との間に因果関係のあることを前提とする原告の主張は失当である。(尤も被告が本件船舶占有中本件船舶の機関を取外したことはそれ自体質物の毀損と考えられないこともないが、原告が本訴において請求しているのは質物の占有を侵奪されたことによつて蒙つた損害の賠償であつて、質物毀損による損害の賠償でないことは弁論の全趣旨により明らかであるから、右のごとき質物毀損による損害については判断すべき限りではない。)

五、証人近藤太郎(第一回)、同竹口豊晴の各証言、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件船舶を臼尻港に繋留するのに使用していた六分パイプ二十尺、八分マニラロープ八十尋、アンカー十貫物二挺は本件船舶の備品として最初から備付けてあつたものではなく原告が所有者である第三者から借りていたものであるが、原告が函館海上保安庁から本件船舶の引渡を受けたときには存在しなかつたことが認められるから、右物件は被告の占有中被告の故意又は過失により滅失したと推定するのが相当であつて、他に右認定を覆すに足る証拠はない。従つて原告は賃借人として賃貸人に対し賃借物返還の義務を履行することができなくなり、その義務不履行により、賃借物の時価相当の損害賠償義務を負担するに至つたものと認めるのが相当である。原告はこれをもつて賃借物の時価相当の損害を受けたと主張するのであるが、賃借人がその占有にかゝる賃貸人所有の賃借物を第三者が奪取し、これを毀滅した場合賃借人としては賃借権及び占有権を侵害されるにすぎないから賃借物の使用によつて得べかりし利益の喪失による損害を受けるのは格別賃借物の時価相当の損害を受けるものとはいえない。このことは賃借人から右賃借物の所有者である賃貸人に対し賃貸借契約上の義務不履行として賃借物の時価相当額の損害賠償義務を負担したとしても何等異るところはない。何となれば所有者としては右第三者に対し直接不法行為を理由として所有物の時価相当額の損害賠償をすることができ、先づ賃借人に対し債務不履行による損害賠償請求をなすことを強制されるものでないのであつて、この場合所有者が既に賃借人から損害賠償の支払を得て、損害が現実に填補されたときは格別、そうでない限り第三者としては既に賃借人に対し賃借物が時価相当額を支払つたからという理由で所有者からの損害賠償の請求を拒否できるものではなく(例えば賃借人が第三者から時価相当額の支払を受けたにかゝわらず、賃貸人に対し損害賠償をしない場合)、第三者は二重の支払を余儀なくされるに至るからである。民法第四百二十二条はかゝる不合理を避けるため、債権者が損害賠償としてその債権の目的たる物の価額の全部を受けたときは債務者はその物に付き当然債権者に代位することと定め、賃借人が賃貸人に対し損害賠償義務の履行として物の時価相当額の賠償をしたときは、賃貸人が所有者として取得した第三者に対する不法行為による損害賠償請求権が法律上当然賃借人に移転し賃借人はこの権利の行使そして第三者に対し、賃借物の時価相当額の損害賠償を請求することができることとしているのである。原告が所有者である賃貸人に対し賃借物の時価相当額の弁償をしたことは原告の主張しないところである(原告本人は右弁償をしたと供述しているが、原告は口頭弁論においてこのことを主張しないし、仮に原告の事実上の主張に弁償した事実の主張が含まれているとしても、原告本人の右供述は信用できないし、他に右弁償の事実を認めるに足る証拠はない。)から、原告の右損害賠償の請求も失当である。

六、してみると、原告の本訴請求は爾余の点について判断するまでもなく失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡松行雄)

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